『瓶詰の地獄』 夢野久作 著/読了

可愛らしい千代紙様の表紙に、誰もが気軽に手にするかもしれない。
だが夢野久作は、それほど甘くない。
けして優しくもないし、可愛くもない。
あるのは多種多様の地獄だけ。
表題作『瓶詰の地獄』を、はじめとする七作の短編集。
夢野が描く独特の地獄を、その短い文章の行間から読み取るがいい。
描いた情景に心からの恐怖と嘆きを感じ、夢野の狂喜を思い知るがいい。
淡々とした文章にも関わらず、読み進めるごとに冷や汗が流れる感覚。
夢野久作の静かな闇の世界を知ることのできる一冊。

暗く、ジメッとした独特の湿度と、ぬめり気を感じる雰囲気は
全編から感じ取ることが出来る。
反面、ミステリとしての突っ込みどころは彼方此方にある。
でもなにも問題ない。
望んだ怖さと薄気味の悪さ、纏わりつく粘度の高い不快感は、間違いなくそこにあるから。
こう言う作風が好きだ。
暗さと陰湿さ、読み終えた後でも何も解決しない居心地の悪さ。
あぁ、最高だ。
『瓶詰の地獄』は、過去にも読んだことがある。
10代の頃を初めとし、たぶん10年おきに一度ずつ。
でも今だに、意味が分からない。
書きたいことはたくさんある。
誰かと話してみたいこともまた。
だが私の周りで、この作品に関して熱く語り合える人はいない。
それはきっと私にとって幸せなこと。
きっと10年後に読んでも、本作は分からないだろう。
でもいい。
好きと言うのは、意味が解るとか分からないとかじゃない。
ただ「好き」なのだ。
誰かと語り合って、無理に納得したくない。
ああ、幸せだ。