Essay 6 聞けない話も大切(1)

住宅設計の仕事をしていると、そのご家族とはいろいろな話題に触れなければなりません。趣味のことから始まって、遊びのことやお酒の好みまで多岐に渡り長い時間をかけて、お話しするのです。もっとも、そんな話は全然無しに、場合によっては「設計者」に一度も逢わずに営業マンとだけ話して、出来あがる家も有るらしいですが、そう言うのは設計とは呼びませんので、あしからず。
ところが、いろいろ話をしていても、どうしても話せない、聞けない話が一つだけあります。しかも、その話しは結構重要だったりするのに…
それは「生理現象の話し」です。生理現象の中でも「性」に関する話しは、絶対と言って良いほど出来ないのです。タブーなのは重々承知ですし、他人様におおっぴらにする話しでもないことは理解しているのですが……でも、皆さんが知らないばっかりに、嫌な思いをしていることも有るのです。
例えばトイレの話し。
小さな男の子がいるご家庭では、経験が有ると思うのですが、便器の周りに、おしっこを飛び散らせ、汚している場面に出くわしたことは有りませんか? その時、お母さんは「またこんなに汚して~」なんて叱りませんでしたか?叱っているお母さんも、叱られている子供も辛いですよね。でも、叱ったら直りましたか?直らないですよねぇ~!また汚し、また叱る。その繰り返し。
実はこれ、洋便器の普及と核家族化がもたらした、弊害の一つだと思うのです。つまり母親が女で、子供が男であると言う「性」の違いが一つと、小便器の衰退が原因なのです。
男性は、平均して5歳ぐらいから勃起します。特に、寝起きには勃起状態にあることが多いのです。これは貯まっているおしっこが原因なのですが、この状態で排尿するのが実は大変なのです。年齢を含む個人差はありますが大抵の場合、勃起時に男性器は上を向いているのです。つまり、便器に向かっていないのです。これを力ずくで下方向に向けることは不可能です。もちろん、性的に興奮している訳ではないので排尿してしまえば元に戻るのですが、それまでは元に戻らない。(子供の場合、おしっこも我慢できないし・・・)
それでは、どうやって排尿するか?男性諸氏は承知のことでしょうが、体を「くの字」に曲げ、放出角度を調節して排尿するのです。(けっこう情けない姿でね~)成長するにつれて、慣れてくるので周りを汚さないようになるのですが、幼児の場合そうはいきません。
それに、この年齢だと包茎状態のため、普通でもどの方向に飛び出すのか予想できません。理解できない女性は、水道ホースの先を指で摘み、水を出すことをご想像下さい。ねっ!どこに飛び出すか判らないでしょう?
結果的におしっこは便器を外れ、周りを汚すことになる。それを拭いて掃除することを、誰も教えないから汚れたままになる。
多くの男性は、おしっこをするときに便座を上げて用を足す。 しかし子供の場合、不幸にも上げた便座に直撃することもあるのですよ。 しかも最近はどこのご家庭でも、便座カバーを取りつけているから始末が悪い。後からトイレに入ったお母さんが、知らずに濡れた便座に座ることになる。(怒りたくなる気持ちも、わかりますがね…)
そんな調子で、毎朝叱られる子が出てくる。母親が女で、子供が男であると言う「性」の違いから来る認識不足なのです。
その点、男性用の小便器は上手く出来ている。周りを汚すことなく、上手に用が足せるのですから。もっとも、最近家庭では見かけなくなりましたね。
また、平常時でも男性の場合 排尿後に振って雫を切るのです。これは、尿管周囲の筋肉が自力で水道管を閉められないからなのですが、このときにも便器の周りを汚すことがあるのです。ですから、男性用の公衆トイレでは小便器の足元に「汚垂石」と呼ばれる物が敷いてあり掃除しやすく出来ているのです。(女性は見たこと無いですよね?)つまり、雫が飛ぶのは仕方が無いのです。
余談ですが、トイレの匂いは壁や床の目地に入り込んだ、アンモニアの匂いなのです。だから、便器をいくらキレイに磨いても、匂いは消えないと言うわけ。 この問題も「男性用小便器」は上手にクリアしているのですよ。(私は便器メーカーの回し者ではありませんけどね) どうです?優れ物だと思いませんか?
私が家の計画図を書くときに、ときどき小便器を書き込むのです。特に小さい男の子がいる家では。ところが、世の主婦はこの「小便器」がお嫌いらしい。
こちらも、面と向かって「朝の勃起状態では」などとは言えませんから、さりげなく話すのですが、主婦に「掃除が面倒で…」とか「見た目が汚らしくて…」などと言われた日には「小便器設置案」はスゴスゴと却下せざるを得ません。
2世代、3世代同居が当たり前だった時代には、朝のトイレの混雑を考えて男性用の小便器が有るのは当たり前だったのですが、今のように家族4人の核家族にトイレの混雑など無いのでしょう?
それとも、この辺りが「家」は主婦のものと言われる所以なのでしょうか? せめて、これを読まれた主婦の方が「男の子」に、寛大な態度で接して頂けることを願って止まないのですが。子供のときに、叱られた経験の有る男からのお願いです。