「いくらなんでも、そのシステム・キッチンは高すぎますよ~山川さん、本当にそのキッチンを使いたいのですか?」
「ええ、是非!これにしたいんです」
「でも、これ流し台と吊戸棚のセットで250万円ぐらいしますよ。その他に収納棚なども合わせると350万は下らなくなりますよ。」
山川さんの住宅は、30坪程の広さで予算が1600万円程なのだ。
とてもじゃないが、流し台にそんな高い物は使えない。(解ってるのかなァ~?)
近頃の流し台は、とにかく凄い。食器洗浄機から始まって、オーブン・レンジ、浄水器、炊飯器まで収納出来るようになっている。流し台の天板も昔はステンレス製が普通だったのに、今は人造大理石や何と本物の石を使った物まである。足元に温風だって出てしまう。扉だって床の間の柱より、よっぽど豪華な木を使ったものや、ピアノ塗装を施した物まである。流し台のカタログの中には、1650万円と書いてある流し台の写真まで載っている。あ~、これじゃあ素人が勘違いするのも、仕方のないことかもしれないが・・・。
家を建てるときに、主導権を握っている女性が、自分の城だと言い切る台所に、熱が入るのも無理はない。だけど、ちょっと待って下さい!
全体の予算が1600万円なのに、流し台まわりだけで350万円はいくらなんでも、おかしいでしょ?全体工事費の22%近く占めるんですよ。 この際だからハッキリ言わせてもらえば、キッチンの高いものを使えば、料理の腕が上がると思い込んでるのだとしたら、大間違いですよ。逆に高い流し台を入れて汚すのが嫌だからと、料理をしなくなった人がいるくらいですからね~。などと、言えるはずもなく・・・。
「山川さん、木造住宅の場合、流し台等の機器や洗面化粧台、浴槽や換気扇、床下収納庫や下駄箱等をまとめて雑工事と言いますが、この項目の費用は全体の7~9%程度が普通です。多少の前後はあるものの、流し台セットだけで全体の22%では、工事そのものが成り立たなくなりますよ」
「そうですか。じゃあどれくらいの流し台なら宜しいですか?」
「目安とすれば、60万円前後というところでしょうか。多少のご希望は検討しますが、あくまでも全体予算を考えたうえで、決定しましょう」
その後、何回かの打ち合わせで山川さんには、70万円弱の流し台セットを選んで頂いた。それでも、とても気に入って貰い内心ホッとした。 東京のショー・ルームを3軒ほど見てまわった結果だけど、 現物を見れば手ごろな値段で良い物はいっぱい有るのだ。
建物を造るときには、当然予算がある。そして、その予算に見合った材料や広さがある訳で、それを無視する訳にはいかない。私は魔法使いじゃ無いんだから、どんなに頑張っても限界と言うものが有ります。だから、絶対に 「カローラの値段で、ベンツは買えない」。
私に出来るのは、精々「スーパーカローラ・ツインターボ・スペシャル限定仕様」が良いところだろう。
それも充分に、しんどい作業だが・・・。