私たちが日々生活していくには、色々な用途の建物が必要となります。自分たちが住む住宅は勿論の事、スーパーや病院、市役所や警察。例を挙げても切りが無いので割愛しますが、そんな建物の一つに「学校」があります。
私も独立前の事務所勤めで、様々な学校建築に携わったことがあります。小学校・中・高、そして養護学校まで。そんな数々の学校建築の中で、いくつかの思い出深い「クレーム」があったのも事実です。
例えば、ある小学校で教室の後ろに、ランドセルを仕舞う、木製のロッカーを作った時の事です。学校を使い始めて暫くすると、学校側から「生徒がロッカーを壊してしまった。どうして壊れるものを作るのか?」とお叱りを受けたのを覚えています。(もっとも、私はまだまだ小僧の立場でしたので、そう言う事があったと言う事を間接的に覚えているだけですが)
また、ある「養護学校」建設の際には、窓の回りに雨水の侵入を防ぐ為のコーキングを施したところ、「児童がむしり取って困っている。どうして、むしり取れるような物を施したのか?」と言われたこともありました。
「んんんん・・・・・・建築は難しい・・・」と未熟な小僧ながらに感じた物です。
つい先日の新聞に、こんな記事が載っていました。港北ニュータウンの建設により人口増加を続ける横浜市都筑区で、「小学校の建設反対運動」が起こっていると言うのです。
以前から小学校建設予定地として確保してあった13.140㎡(およそ3975坪)の土地に、3階建ての小学校の建設を実施すべく動き出し、設計も完了した時点で地元住民に趣旨を説明した所、反対の声が上がったと言うのです。
反対理由は、
1.「第1種低層住居専用地域に、景観を損ねる建物は必要ない」
2.「人口は今がピークで、将来は減少するから」
3.「住民に皺寄せをせず、2階建てに縮小すべき」
4.「校舎がこちら側に接近して建つとは思わなかった」などなど・・・・・。
住民側から提示された妥協案は、
「校舎の屋上に予定しているプールを地上に下ろせ」
「全教室に冷暖房を完備しプライバシーの侵害と騒音を減らせ」
「建物を2階建てに縮小しろ」
と言った内容でした。
ちなみに反対しているのは、校舎が接近する二十所帯。いづれも中学生以上の子供たちを持つ家庭で、小学生の子供を持つ家はいらっしゃらないようです。付け加えておきますが、学校の敷地の周り全て住宅街です。
気持ちは判らなくもありません。昨日まで広い空き地だった場所に、小学校が建つと言われれば、チョット驚くのは理解できます。でも、その土地は以前から「小学校建設予定地」として、周知されていたようなのです。
「第1種低層住居専用地域」と言うのは、良質な住環境を守る為に「主に住宅」を建てましょうという地域です。ですから、住宅地に当然必要な学校や病院・警察や消防署は、その地域に建てることが可能ですし必要なのです。
「校舎がこちら側に建つと思わなかった」と言う意見もあったようですが、それでは一体どう建つと思っていたのでしょう?こちら側に建たなければ、あっちはどうでも良いと言う事なのでしょうか?それって、少し都合の良い考え方のように感じてしまいます。
また、「全教室に冷暖房を設置しろ」とは、教室の窓を一切開けさせないつもりですか?子供たちは「風や自然の香り」さえ感じる事は許されないのでしょうか?子供たちの声が響くのは、主に休み時間のグランドです。音の話をするのならば、グランドに近接している家の方が、よっぽど騒がしいと思いますが。
プライバシーねぇ。これって、凄く判るようで実は抽象的な言い方ですよね?簡単に言えば校舎から、部屋の中を覗かれたくないと言う事だと思います。では、2階建てにすれば解決する話なのでしょうか?
例えば南側が、仮に住宅だったとしましょう。それでも、プライバシーと言う抽象的な言葉を使うならば、侵害されると思うのです。
教育委員会も、校舎の位置を民家から離したり、間に背の高い樹木を植えるなどの、出来るだけの対応案を提示しているようです。それでも、「環境対策についての説明」を求めているようです。
私は当事者ではありません・・・。設計者としても携わっていませんし、近隣住民として、そこに住んでいるわけでもありません。関係者が読まれたら、ご立腹されるのかもしれません。でも・・・21世紀を担う子供たちの心と体、そして無限の才能を育む為の場所「学校」が、ただの「迷惑施設」と呼ばれるには、どうしても切ないものを感じてしまうのです。
横浜市の教育委員会は、現在、移転と新築を併せて6校の学校建築を進めているらしい。近隣住民と出来る限り「共存」し、地域に溶け込める学校を切に望んでしまいます。
私も子を持つ父親ですからね・・・・・。