Essay 133 賃貸住宅の原状回復って?

「ホントにあと12万円も払わなければいけないのですかねぇ~」

と、肩を落とすMさんは念願のマイホームを手に入れたばかりです。それなのに、何が原因で落ち込んでいるのかと言えば、それは今まで住んでいた賃貸アパートの原状回復費用の事だったのです。


このMさん、家族4人で暮らす、ごくごく普通のサラリーマン。どちらかと言えば静かな大人しい感じの方なのですが、念願かなって夢のマイホーム(今時、言わないか?)を手に入れることになったのです。設計も工事も全て順調で、何の問題も無く引越しをした矢先に問題が発生!長年住んだアパートを退去する際に「部屋の原状回復費用が預かっている敷金だけでは足らない。あと12万円ほど支払って欲しい」と大家さんから言われたんです。


実はこうした賃貸物件の退去時に「原状回復費用」に関するトラブルは、ここ最近急増しているのが実情なんです。今まで大抵は、大家さんからどんな要求をされても泣き寝入りをしていたのが実情なのですが、あまりに問題が多いので、ようやく国が重い腰を挙げたようです。


その内容は、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮して、原状回復の費用負担のあり方についてで、平成9年当時において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめました。


①ガイドラインは、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しています。
②ガイドラインは、賃貸借契約締結時において参考にしていただくものです。
③現在、既に賃貸借契約を締結されている方は、一応、現在の契約書が有効なものと考えられますので、契約内容に沿った取扱いが原則ですが、契約書の条文が曖昧な場合や、契約締結時に何らかの問題があるような場合は、ガイドラインを参考にしながら話し合いをして下さい。

と言った物。これ説明無しでは理解不能ですよね(笑)
簡単に説明します。ガイドラインのポイントは、大きく分けると4つの点になります。


【その1 原状回復とは?】

原状回復とは「借りている人(以下 賃借人と記載)の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる自然損耗、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃貸人負担と定義しました。つまり原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化したのです。

今までは退去時に、何でもかんでも賃借人の負担だと思っていたでしょ?でも違うんですよ。だって建物って使っていようが居まいが古くなっていくでしょ?その責任まで賃借人が負担する必要は無いと言う事。じゃあ、「通常の使用って何?」って言うのは次の項目。


【その2 通常の使用って?】

ところが、この定義が難しかった!そこで賃借人(借りる人)と賃貸人(貸す人)の負担するべき物を考えたんです。

A :賃借人が通常の住まい方、使い方をしいても、発生すると考えられるもの
(畳の日焼けや壁紙の汚れ等、どんな事をしても経年変化してしまう物)


:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの。明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの
(例えば“くさや”が大好きな人が、毎日“くさや”を焼き続けたので部屋の中に凄い匂いが染み付いてしまった場合←有り得ない例え ^^;)


A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
(これが微妙・・・。例えば壁紙が汚れる。これは仕方が無いが普通に掃除さえしていれば、こんなに酷くは汚れないでしょ~って感じだと思います。)


A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
(これは簡単、入居時に安物の壁紙が張ってあったのを、入居人が最高級の壁紙に張り替えてしまったような場合。つまり元よりも良くなったような場合でしょ)


この4つのうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があると決めました。だいぶ解りやすくなってきました。つまり建物は月日が経てば、どうしても傷むのは借主の責任じゃ無いと定義したのです。


【その3 経年変化を考慮する】

上記のBやA(+B)の場合であっても、自然に傷んだり擦り切れたりするものも含まれていますが、賃借人はその分を家賃として支払っているので、賃借人が修繕費用の全てを負担するのは、チョット不公平です。
ですから公平さを守る為に、建物や設備の経過年数を考慮し、長く住んでいる、あるいは建物が古いなどの要素を考慮し賃借人の負担割合を減少させるのが適当だと言う事も明文化されています。


【その4 施工範囲は?】

原状回復する部分とは、あくまでも毀損部分(破れたり傷ついている場所)の復旧ですから、可能な限り毀損部分だけ限定し、ついでだからと言って過剰に修繕してはいけませんよ!と言う事。ただし壁紙などの場合、張り替えた場所と、そうでない場所に色・柄などの調整がある時は最低限で調整しようね、と言う基準を示しました。


でもこの程度のガイドラインが、今まで無かった事の方が不思議ですし、チョット厳しい事を言えば曖昧過ぎて解り難い気がしないでも有りません。でも、一方的な費用負担をしなければなら無いと言う間違った常識からは救われたような気もします。


最終的には、大家さんと入居者の話し合いかもしれませんが、1つの目安にはなりませんか?このガイドラインを入手されたい方は(財)不動産適正取引推進機構で手に入れることが出来るそうです。また書店に行けばガイドライン作成の背景や判例等を詳しく紹介した解説本も売られていますので、ご参考に為さってみてください。


そうそう!Mさんはどうしたかと言えば、このガイドラインを手に入れ、不動産屋さんや私も同席し交渉した結果、追加分の12万円は払わない事で双方が納得して無事解決。メデタシメデタシ
えっ!「設計事務所って、そんな事もやるのか?」って? やるんですよ~私の場合、だからいつでも貧乏暇無しなんでしょうね。じゃまた!