Essay 143 金融公庫と建設業界 2

前回のエッセイの続きです。(チョッとだけ遡りますが、ガチンコほどは戻りません)


「質の低下」が何故起こるかと言えば、独占市場になるからに他なりません。住宅メーカーが全盛の時代だからと言っても、住宅メーカー自体が莫大な利益を上げている訳では有りません。「価格競争」・「多様化するニーズ」・「下がらない人件費」で、その内情は火の車です。


仕事が無くなった大工さんや工務店は、今よりももっと住宅メーカーの下請け仕事を獲得しようと、奔走する事になるでしょう。当然メーカーの買い手市場です。職人の手間を叩き、建物全体のコストを下げる事に躍起になると思います。そして建物の値段を変えずに、利益だけを上げようとする。いくら買い手市場だからと言って『仕事をすればするほど赤字になる』のでは、職人だってやってられない。だから手を抜く。如何に経費を掛けずにノルマをこなそうかと考える。完全に悪循環。

この辺りの様子を察知している金融公庫は、少しずつでは有りますが、その存在が有るうちに建物の質を確保出来るように制度を変えようとしています。


例えば『完了検査』の完全義務付けです。今までは中間検査にさえ合格すれば、完了検査を受けなくても工事が完了したと言う証拠を提示すれば「融資額」は支払われていました。つまり「完了検査済証」が無くても、建物を登記する事によって融資して貰えたのです・・・・・・ノーチェックで。


木造住宅の場合、中間検査と言うのは骨組みの検査です。窓も内装も施されていない段階で、筋交いや金物補強のチェックをしているに過ぎません。だから完成時に窓が無くなろうが、確認申請時の設計図に無い部屋が出来ていようがOKだったんです。だって金さえ貰っちゃえば、こっちのもんでしょ?基準法にだって罰則規定なんか無いに等しいですからね。


と言う不埒な輩が居たのか居なかったのかは兎も角、これじゃあ~折角の公庫の基準だって、施工者と施主のさじ加減一つで、どうにでもなってしまいます。これに「待った!」を掛けられる設計者だって、下請けの代願事務所じゃ~、言うに言えないのが実情だと思いませんか?


私の住む小田原市の近くには、そんな代願事務所にも明確な権限と責任を持たせようとしている行政があります。それは「お茶」の産地として有名な静岡県。静岡県では建築主と直接交わした「設計監理契約書」を確認申請書に添付しなければ、確認申請自体を受け付けて貰えません。更に完了検査を受けるには、県が指示した所定の工事箇所のチェックを設計者自らが立会い検査し、その証拠写真や指示内容を添付しなければなりません。素晴らしい!少しは見習え神奈川県!


なぜ素晴らしいかと言えば、所謂下請けの代願事務所と言うのは、建築主に直接会う機会さえ与えられてい無いのが常なのです。直接会って話をする事が出来れば、少しはその『家族』を知る事が出来ます。家を建てると言う事は、住む人を知る事から始まる部分もあるのです。


さらに建築主と直接契約することが出来れば、代願事務所は『もう建設会社の下請け事務所』では無くなるのです。なぜって建築主との直接契約に乗っ取った業務でしょ?間違っている事は『間違ってる』と言える立場じゃないですか。


更に公庫の完了検査が完全義務付けとなり、設計者が設計者の役目を全うすることが出来れば、建物の質を保つ事に少しは貢献出来る筈なんです。


更に話を一歩進めて、金融公庫が無くなった時の事を見越して、建設会社が建物の質の事を考えるとするならば、現状では「性能評価」を頼りにするしか無いとも思います。


確かに『性能評価』に関しては、まだまだ問題点も多く含まれているのは事実ですが、現状で出来る最善の方法は何かと尋ねられれば、それしか無いとも思います。


こう書くと・・・・・また異論を唱える意見が来るんだろうなぁ・・・ボソッ
でもね、そう言い始めたら金融公庫の断熱材の使い方にだって、疑問を持っている方が沢山居るんですよ。柱や梁を金物で補強する方法が、『在来工法』の質の低下を煽っていると言う意見だってあるし・・・・・。


地域の大工さんや建設会社が、今後も生き残ろうと考えるのならば、自社の建物の品質の確保と、誠意あるアフターフォローしかないと思います。性能評価制度って、その為の物なんじゃないんですか?そして、それらを全て自分一人でやる必要などありません。フェアなスタンスと客観的な判断が、建築主にとっても重要なポイントだと思うからです。


建築主だけではなく、建設会社を始めとする職人・設計者にとっても、受難の時代突入ですねぇ。