Essay 147 中途半端なバリアフリー

■その1
先日チョッと事情があって、車椅子の方が利用できる店を探していました。
正直に言えば、車椅子を利用している方から建築のご相談が有ったので、その方と落ち着いてお話できる場所を探していたのです。(だって、うちのトイレ狭いんだも~ん)


時々、息抜きにコーヒーを飲みに行く画廊を併設した喫茶店、ランチが安いフレンチ・レストラン、アメリカンサンドが絶品の、丘の上のクラブハウス。さてさて、何処でお会いしようかと考えていました。


ところがダメ・・・全滅なのです。普段は何気なく利用している店なのですが、よく考えると入り口に2~3段の階段が有ったり、トイレがとても狭かったりと、とてもお目当ての場所からは程遠い。仕方ないから街中の店を頭の中に思い浮かべてみたのですが、何処もダメ。みんな大なり小なり問題がある。いや~、正直こんなに街の中が、車椅子利用者にとって利用しずらいとは思ってもみませんでした。


仕方が無いので公共の建物を利用させて貰おうと考えたのですが、これがまた一苦労。
公民館や市民会館、地域の交流センターと公的建物はいくつも有るのですが、何処も予約で一杯なのです。ようやく探し当てた生涯学習センターは、街中からとても離れた場所でした。(それでも見つかっただけで良しとしてますが)


早速事前の利用申し込みに行ったのですが、まぁ~ビックリしちゃいました!平日の昼間から人が居るわ居るわ!一体何事かと思うほどの人の数で、建物の中はごった返していたんです。思わずセンターの人に「今日は何かイベントでもあるのですか?」と尋ねたら、「い~え、いつもこんなもんですよ」とのご返事。皆さん、生涯学習にご熱心な事で~。


余談ついでに、もう一つ聞いてみました。「車椅子利用者が安心して利用できる公共施設は、何処も予約で一杯なのですが、そんなに車椅子利用者は多いのですか?」と。応えは案の定「いいえ、ほとんどいらっしゃいません」との事でした。


■その2
小田原市では「交通バリアフリー基本構想」なる物を作成すべく、準備活動に入っているそうです。構想案立案の為に、専門家、行政、市民からのスタッフも募集しています。


「交通バリアフリー構想」とは、どんな事を考えているのか広報誌を良く読んだところ、小田原市駅周辺から観光名所でもある小田原城までの歩道や、その周辺道路の放置自転車の対策などを考え、車椅子・ベビーカーなどの安全で利用しやすい街造りを目指す物らしいです。


説明には、「実際にメンバーが車椅子に乗り込み、街を歩いてみる」とも書いて有りました。
うぅぅぅ・・・ん、悪い事ではないし、正しい事を考えているとは思うのですが、どうして「有識者」とか「市民からのボランティア・メンバー」と言う発想になっちゃうのでしょう???

健常者が車椅子を実体験する事は大切な事だと思うのですが、果たして半日やそこらで本当に車椅子利用者の方の苦労が解るのでしょうか? それならなぜ「車椅子利用者」の方を、メンバーに入れた方が早いような気がするのですが???と、思ってしまった。


いつか聴覚障害の女性に言われたのです。「私達には健常者の事は解らない。でも健常者にも私達聴覚障害者のことは理解できない!」ってね。その言葉が今も耳にこびり付いているんです。


■その3
築30年近く経つ、老朽化したマンションの改修計画の相談を受けています。先日、そのマンションの理事会に出席し、調査報告や改修計画、予算などについての説明をしていた時のことです。


組合長に「エントランスに、車椅子でも利用できるようにスロープを造って欲しいのだが、いくらか掛かるか見積もりを出して欲しい」と言われました。


まるで手品師に「シルクハットから鳩を出して欲しい」と同じ程度の気軽さで言われてしまい、正直驚いてしまいました。なぜって、「スロープを付けたら、はい!バリアフリーの出来上がり~!」と言う訳には行かないからです。


そのマンションのエントランスの扉は両開きの扉です。扉一枚の大きさは幅80cm、高さ2mも有る網入りガラスの入った重い扉なのです。開き戸って車椅子の方にとって「入ってくるな」と言われているのと同じ事なのです。


またエレベーターのインジケーターも(押しボタンのパネルですね)、普通の位置、高さに有ります。とてもじゃないですが車椅子が回転できない狭いエレベーターの中では、健常者には押す事が出来ても車椅子の方には仕えない代物なのです。

その旨を説明し、「本当に高齢者・車椅子利用者の為に改修しようとお考えなら、もう少し使う側の身になって改修しないと、ただスロープを付けただけで終わってしまいますよ」と、ご説明したと言う訳。


それに正直言えば簡単に「見積もり出して」って言われ方に、少々カチンとも来ましたしね。
だって私施工業者じゃないも~ん!私は設計する、つまり考える事が仕事で、見積もりを作成するのは、その次の作業なのですから。(←ここんとこ大事なんですよ~)


■その4
小田原から程近い温泉町“湯河原”に建つ、保養施設での出来事です。その保養施設(つまり宿泊施設ですからホテルみたいな物だとお考え下さい)は、1部屋の中に和室と洋室の2室が有ったそうです。


気の利いたことに和室は洋室より、45cm程高くなっていました。これは車椅子の座面の高さで、車椅子利用者が洋室から和室に移動する時に、移動しやすい事を配慮をしたのでしょうね。うんうん、バリアフリーの発想だ~、偉いなぁ~・・・・・と言いたい所なのですが、この配慮が配慮不足でした。


なんと宿泊客のご夫人が、この45cmの段差から落ち、足の骨を折ると言う怪我をしてしまったそうです。怪我をされたご婦人は賠償請求を起こされ、保養施設の管理者はあっさり敗訴。責任を認めたと言う顛末。


最近私が見たり経験した4つの出来事を書きましたが、どれも私の中ではモヤモヤした物ばかり。
全部「中途半端なバリアフリー」と言う言葉を連想させてしまいます。バリアフリーと言う言葉自体、まだまだ最近の言葉です。ですから現段階では、本当に利用しやすい建物・街並みを造る過渡期なのかもしれません。


でもなぜか「バリアフリー」と言う言葉だけが、一人歩きをしているような気がして成らないのです。【バリアフリー対応住宅】・【バリアフリー割増融資】・【バリアフリー改修助成金】と言うように、この言葉は流行語のように使われていますが、それじゃあ、本当にその趣旨に沿った住宅・改修・街並みになっているかと言うと、まだまだ・・・、いえ!全然違うと言わざるを得ません。


ある看護婦さんから、こんなメールを頂きました。
「同じ車椅子利用者でも、腰から下の全てが麻痺しているのか?右半身だけか?あるいは左半身だけなのか?その違いで、配慮しなければならない事は全く違います。」とね。

そんな心配りや配慮が、本当は一番大切なのではないかと思う今日この頃です。