Essay 163 狭いと・・・ダメ?

「兎に角リビングは、出来るだけ広くしてもらえますか」
『具体的に広さのご要望は有りますか?家具とか使い方を考えて?』
「そんなものは無いですけど、兎に角目一杯!20帖以上の広さにして下さい!」
『ゲッ!20帖ですか? 大きなソファーやテーブルを購入する予定でも有るのですか?』
「いえいえ、うちは家族全員コタツが大好きなんで、そんなものは無いんですが・・・。」
『それでは、お客様が多いとかですか?』
「いいぇ~、年に2~3人も来れば良いとこです」
『それなのに20帖ですかぁ?。』


榊原さんの奥さんは、兎に角「リビング第一主義」の人でした。家全体の面積は35坪程度と、広くも無く狭くも無いと言う平均的な広さなのですが、兎に角「リビングを広くしたい」の一点張り。


建物全体の広さから、平均的な居室の広さのバランスと言うものが有るのですが、これはまぁ、好き好きですから拘る必要は無い。例えば風呂が8帖ぐらいあって、家族全員で入るのが楽しみなんて言う人には、ドーンと8帖のお風呂を造っちゃえば良いんです。


夫婦で料理を作るのが趣味だから、台所だけをポーンと広くして欲しい!アイランドのキッチンをデーンと中央に据えて、さながら料理教室みたいにしたい・・・なんて方には、それなりの台所を作れば良い。だから言ってる事が解らない事は無いのですが、「なんで20帖?」って言うのが解らん???20帖って言えば10坪ですよ?家の1/3がリビングなの? その数字の根拠はどっから来たの?


「外との関連性を持たせて、広がりのある居間を」とか「家族が一緒にくつろげる場所に」とか言うのなら、まだ解りますが、いきなり「居間は20帖!」と言われても、こちらも判断に困ってしまうと言うもの。


自分の子供時代、部屋の隅っこや、狭い場所がなぜか落ち着く場所だった。「そりゃあ育ちが貧しいのでは?」と聞かれれば、返す言葉はございませんが、それだけでも無いと思うんです。人が落ち着く、あるいは快適と思う空間には適当な目安が有ると思うんです。


例えば体育館の真中に便器をポンと起かれて「さあ、ここで用を足して」と言われたとしたら、ホントに落ち着いて出来る?以前、子供の躾の本を読んだ時に、トイレトレーニングの話で、こんな話が有りました。オムツを外す為に、おまるで練習させる場合「子供がリラックスできる場所で練習させましょう」と言う話。


これ、尤もな話。部屋の真中におまるを置かれ、傍のTVじゃあ“踊るポンポコリン”が流れているような場所で、「さぁしろ!頑張れ!ここでしろ!」と言われたって、そりゃあ~子供だって出るものも出ないって。


話が脱線してしまいましたが、家が狭いと物が散らかると言われますが、実はあれも違うのではと思っています。「家が片付かない」と愚痴る方がいますが、大抵そう言う方は「収納が少なくて・・・」と言われます。じゃあ収納を増やしたら、物が片付くかと言うと、それはその時だけの話。数日、数週間あるいは数ヵ月後にはまた「物が片付かなくって~」って事になる。これ単純に言えば、物が多過ぎるんですよ。


学生時代にアパート暮らしをした経験がある方なら解ると思いますが、6帖の部屋なら6帖なりの物があり、4畳半なら4畳半なりの物しかなかった筈。6帖一間のアパートに、ベッド置いて、箪笥置いて、4人掛けの応接セットは置かなかったでしょ?


チョッと極論ではありますが、部屋の広さと建物全体面積のバランスと言うのは、必ず有るものです。そのバランスを壊してはいけないなどは考えませんが、壊すには壊すなりの理由が必要だと思うのです。それじゃなければ、ただの我侭。


以前雑誌で見た住宅に、玄関の扉を開けると行き成り台所!お風呂に入る為には、トイレの中を通って行かなければ成らない家が有りました。思わず「スゲェー!」と驚いたものですが、極小地住宅ながらも個室だけは、ゆったりと確保されていました。その割り切りの良さと、ある種の潔さ。それを提案できてしまう設計者の大胆さと、「よござんしょ」と住みこなす家人に、頭の下がる思いでした。


居間に限らず部屋の広さを、そのまま使えている部屋と言うのは少ないと思います。例えば6帖間であっても、そこに箪笥が置かれ、鏡台が置かれ、TVが置かれ、そしてテーブルがドーン!。気が付いたら、「歩く場所は何処?」って具合に・・・。


計画図の段階から、その辺りをキチンと理解し、あるいはキチンと理解してもらうための努力をしないと、無駄に広かったり、どうしようもなく狭い部屋が出来上がってしまいます。その辺り、大切な事ですから、充分気を使いたいと思っています。


あっ!そうそう!榊原の奥さんには、その辺りを充分に説明し、書き上げたプランの居間は8帖足らず。でも充分満足された様子で、ホッと胸を撫ぜおろしたり、冷や汗ぬぐったり。
こんな毎日、大変ですが嫌いじゃないですけどね。