Essay 176 ウォーク・ドント・ラン

初めて親に内緒でLIVEを見に行ったのは、確か15歳の秋だった。
今と違って、学校からも「コンサート禁止」と言われていた時代なので・・・コッソリと行くなんて・・・しかも外国のバンドのコンサートだなんて・・・しかもしかも!エレキギターを弾くバンドなんて!そりゃ~もう悪の権化みたいに言われていた時代な訳で、だからそんな所に行きたいなんて言っても許される筈も無い。で、コッソリと見に行ったのは「ザ・ベンチャーズ」。知ってます?テケテケテケテケって奴。


席は幸運にも前から2番目で、でっかいスピーカーの真ん前。そのスピーカーから溢れる大音響に、ぶったまげたのを覚えている!演奏曲も「クルエルシー」とか「パイプライン」とか「ブルドック」・「朝日の当る家」・「十番外の殺人」と、そりゃあ~もう!レコードが擦り切れるほど聴いていた曲ばかりで、感激しまくりだった。


その中でも一際印象深かったのが「ウォーク・ドント・ラン」。
なんかカッコ良かったのよねぇ・・・・・だから、後で「ウォーク・ドント・ラン」と言うのは、「急がば回れ」みたいな意味だって知ってからは、決してその意味を忘れた事は無かったし、何かと言うと「ウォーク・ドント・ラン」をバカの一つ覚えみたいに連呼していた時もあった。なんせ中坊だったから。


そんな15歳の頃から、もう既に5年も経つ。(←鯖読むのにも程がある)
ところが最近になって、そんな忘れていた筈の「ウォーク・ドント・ラン」を思い出す事が多くなった。


今の時代、身の回りをゆっくりと見回してみれば、何一つゆっくりと流れている物は無い事に気付く。例えば「今直ぐ、お金振り込んでよ」の振り込め詐欺や「今ならお安くしておきますから、取り合えず契約だけでも交わして・・・」のリフォーム詐欺と、嫌な犯罪は今の時代だから成り立つ犯罪。


街を歩けば携帯片手に喋り続ける人達で溢れ、友達と一緒に居ても別の友達にメール打つ子も居る。


地球の裏側の出来事を、今直ぐ見るために衛星にまで助けて貰い、大切な法律を作る行為でさえ、キチンと時間を取って話し合う事さえしない。兎に角早く早く早く早く!!!!!!のスピード時代!まるで早い事が正しくて、遅い事は悪い事のような時代、それが今。


小学校に入る前から大学入試を目指し、やれ塾だ!やれ習い事だ!と10年以上先の事に目を三角に吊り上げる現代。それが悪いとは言わないが、それが良いとも思えない。

家を建てる時だって同じ。
兎に角早い事が最優先で、家を建てる資金を貸す金融機関だって「ほれやれ!さーやれ!今直ぐやれ!」と煽りまくる。なんで?意味が分からん???そんな必要、全く無いでしょ?そうやって煽るのって、たんに自分のボーナスの査定を気にしているだけでしょ?違うの?


だからボーナス時期が過ぎると、途端に静かになったりする。そんな金融マン、山ほど見ているけど、口が避けても言わないけどね・・・大人だから。


そんな感じで、資金計画の時点で煽られている訳だから、建物の計画になったら尚の事、「早い事が一番!」てな事になり、今日見せた敷地図を元に「明日図面下さいな」と言わんばかりの勢いで来られた日には、どんな仕事でも引きますって・・・・・・いやホントに。


工事の時だって、この急かす感覚は変わらずで、ビニールクロス張っているのと、漆喰塗っている作業時間が同じ感覚で煽られる訳だから、こりゃあもう溜まったもんじゃない!


時代が進化して、いろんなツールが生まれてくるのは、兎にも角にも「早く早く早く」と、時間を短くさせる為だけのものばかりって気がするのは私だけ?それって嫌じゃないの?辛くないの?・・・と思うわけ。そんな時に「ウォーク・ドント・ラン」って心の中で囁いてる自分が居る。


だいたい皆だって同じように「嫌だな~」と思っているから、そのストレスを解消する為に「リラクゼーション」なんてものが流行る訳で、のんびりお香を焚いて・・・とか、アロマキャンドルが売れたりするのだと思っている。


ねぇねぇ、何でそんなに急いでるの?
そんなに急いで何処行くの?


お母さんが子供に向かって「早くしなさいよー!」と怒っている光景を良く見かけるが、そんなに急かして何処行くの?急かすと、子供に何か良い影響があるの?ひょっとしたら気付いていないだけじゃない?本当に急かされているのは、子供じゃなくて自分だって事に。自分が何かに急かされているから、つい子供にも「早くしなさいよ」と、急かしているって事を。


でもさ・・・・・・・本当にそんなに急がなければいけないことなんて有るのかなぁ。
急かされている事が当たり前になって、その辛さが慢性化すると、今度はそれが日常になる。だから、それが急かされている事だと気付かずに居て、でも何処かに辛いと言う記憶もあって、心のバランスが崩れたりするんじゃないの?

家を造る時の作業には、それぞれ適切な時間が有る。
丈夫な基礎を作るためには、コンクリートをゆっくりと乾かす時間が必要だし、ひび割れない塗り壁を作るには、下地作りの工程に時間を掛けることが大切。

悔いの無い空間作りなんて、ひょっとすると無理なのかもしれないが、その悔いを少しでも少なくする事は出来る筈。その為の時間を惜しんで、大きな後悔をしない為の家造りが大切でしょ?その為のキーワードが、ひょっとすると「急がば回れ」、そう「ウォーク・ドント・ラン」なのかもしれないと思う訳。


たまにはボサノヴァでも聴きながら、冷えたスパークリングワインでも飲んで、たまには「たおやなか時の流れに揺られてみては如何?」きっと良い案が浮かぶかもしれませんよ・・・・・。


あっ!ベンチャーズでも良いかも?